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86話 億年の旅路

Author: ニゲル
last update Last Updated: 2025-06-26 13:45:04

「ねぇ……ボクは間違えたのかな? それともあれが最善だったのかな……?」

暗い夜道で廃ビルの屋上に腰をかけ手元にあるベルトのバックルに話しかける。全盛期の頃、ボクがまだこんなに衰えてない頃に使っていた変身道具だ。

これに触れているとかつての仲間や最愛の妻を鮮明に思い出すことができる。ただ今となって人々を助けるはずだったこの道具は、記憶を呼び起こすための思い出の品になってしまっている。

(本当に格好悪いよね……ボク)

高嶺やみんなの前では彼女達を想い強がったが、ボクだって心が挫けそうだ。誰よりも長寿なボクは仲間を失うことなんて数え切れないくらいあった。

その度に悲しみ同時に慣れていってしまった。もちろん悲しくないわけではない。だが波風が死んだと確信した時も真っ先に出てきたのは涙よりも『またか』という慣れの感情だった。

「随分と冴えない表情だな。悩み事か? 珍しいな」

キュアリンがひょこっと顔を出す。耳をピョコピョコと動かしボクの隣に座る。

「ボクだって人並みに悩んだりするよ。ボクは神様じゃない。この宇宙に生きる一人の生物なんだからさ」

ボクは全身を崩し触手状にする。人の腕サイズくらいの芋虫となり、触覚をクネクネ動かして言葉を発する。

これがボクの本来の姿、寄生虫としての姿だ。サイズは微生物サイズにしたりビル程の大きさに調整できるが、今は話しやすいようにこのサイズでいく。

「そうだな……それにしてもやっぱりお前の姿は何度見てもビビるな。初めて会った時なんて腰抜かしたぞ」

「あはは……初めて会った人はみんなそう言うよ」

「そういえばいつもは何であの子供の姿なんだ? 他にも色々動物や地球人に似た姿にもなれるんだろ?」

「あの姿が居なくなった妻と共に過ごした姿だからね。基本的にはあの姿で生きていくって誓ったから」

キュアリンと昔話を繰り広げ、荒んだ心が少しは丸くなる。

「そういえば高嶺達はどうだった?」

「ボクも可能な限り説得したよ。とりあえずは自殺したりなんてことはないと思う」

「そうか……いくらキュアヒーローがあの年頃の女の子しか変身できないとはいえ、これ以上戦わせるのは心が痛むな」

様々な生物に変身できるボクは、事前に取り込んでおいた地球人の若い女の子の血液からDNAをコピーして変身できたが、それ以外の訓練を受
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